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捕虜輸送中に沈没した船

捕虜輸送中に沈没した船

POW研究会 編

はじめに

第2次大戦中、日本軍に捕らわれた30数万人の連合軍将兵は、労働力として占領地間を行き来させられ、或いは日本に移送された。(うち、いわゆる“白人捕虜” 以外の現地兵は、日本軍への忠誠を誓わされた上で解放されたが、実際には“ロームシャ”として使役された) 海上輸送された捕虜やロームシャは5万人とも6万人とも言われるが、敵艦・敵機の跋扈する海域で多数の船が撃沈され、おびただしい犠牲者を出した。

彼らは乗船前にすでに現地の過酷な労働で疲弊していたが、“Hellship(地獄船)”と呼ばれた劣悪なコンディションの船旅で病人が続出した上、彼らにとっては味方の攻撃によって命を落とすことになったのである。日本の俘虜情報局編『俘虜取扱の記録』によると、捕虜輸送中に沈没した船は計24隻で、乗船捕虜18,182人のうち10,834人が死亡している。中には乗船捕虜全員が海没した船もあった。救助されて生き延びた人々も、港や収容所に着いてまもなく息絶えてしまったケースが多かった。

これらの犠牲者に対して、私たちは心からの哀悼の意を捧げると共に、この悲劇を歴史記録として書きとどめたいと願い、沈没した24隻(正確には23隻と判明)についての調査結果をここにアップした。残念ながら、日本には捕虜輸送船に関する資料や文献が極めて少ないため、外国文献や沈没船のウェブサイトなどに多くを頼らざるを得なかった。それ故、United States Naval Institute から、Gregory F. Michno氏の著作“Death on the Hellships”にある捕虜輸送船に関する多くの貴重な情報を使用する許可を頂いたことに心から感謝したい。

また、貴重な写真をご提供下さった方々にも感謝したい。写真が見つからなかった船、著作権者がどうしても判明しなかった写真もいくつかあるが、それらについての情報をお持ちの方はぜひお知らせいただきたい。

なお、元捕虜の体験記などで、「船に捕虜輸送中の標識をつけていなかったから攻撃された」という記述がよく見られるが、捕虜の人道的扱いを定めた1929年ジュネーブ条約には、私たちの知る限り、病院船に関する定めはあっても、捕虜輸送船に関する定めはなかった。国際赤十字は1940年頃から、捕虜輸送中のすべての船は、認知された標識を掲げ、捕虜と軍隊や軍事物資との同時輸送を自粛するよう何度か提言したが、枢軸国側、連合国側双方の反対によって実現しなかった。アメリカも戦争勃発以来、日本に対し「無制限潜水艦戦争」を行っていた。いずれも、連合国の捕虜の命を救うことによるメリットよりも、敵船舶を攻撃することの重要性の方が優先されたからである。

しかし、だからといって日本が責任を免れることはできない。捕虜を輸送した海域は米潜水艦が猛威を振るい、攻撃される危険性は明らかに高かった。こうした海域に捕虜を送り込んだこと自体、捕虜の安全確保を謳う同条約の精神(前文「戦争なる極端な場合に於て能うる限り其の割くべからざる惨害を軽減し且俘虜の状態を緩和することは一切の国の義務である」)に反していたと言える。

いずれにせよ、このような惨禍を生み出す非情な戦争が再び繰り返されないことを願うばかりである。

沈没船遭難位置・各船の詳細

※地図画像をクリックすると拡大表示します。

船名をクリックすると詳細記事にリンクします。
1: もんてびでお丸 2: りすぼん丸
4: 日明丸 5: す江ず丸 6: 冲鷹
7: 男鹿島丸 8: 生駒丸 9: 香取
写真を探しています
10: 黄海丸 11: 丹後丸 12: 第二榮豊丸
写真を探しています 写真を探しています
13: 玉鉾丸 14: 治菊丸 15: 光州丸
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16: 勝鬨丸 17: 楽洋丸 18: 真洋丸
19: 順陽丸 20: 豊福丸 21: 阿里山丸
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22: 鴨緑丸 23: 江ノ浦丸
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以下は、捕虜を輸送したその他の船です。上田毅八郎氏による画のみの紹介です。
安芸丸 乾坤丸 羅津丸
はわい丸 前橋丸 北鮮丸
帝亜丸

参考文献

Death on the Hellships, Gregory F., Michno USNI

Silent Victory, Clay Blair Jr., Bantam Books

Darkest Hour- Lark Force at Rabaul, Bruce Gamble, Zenith Press

Return from the Rivwer Kwai, Joan and Clay Blair, Jr., Simon & Schuster

Execute against Japan, Joel Ira Holtwitt, Texas A&M Univ. Press

Father Found, Duane Heisinger, Xulon Press

「俘虜情報局俘虜取扱の記録」俘虜情報局

「潜水艦攻撃」木俣滋郎 光人社

「海の墓標・戦時下に喪われた日本の商船」三輪祐児 展望社

「遥かなる回帰の海」兵学校71期駆逐艦部会編集

「空母冲鷹の遭難」桂 理平 兵学校72期HP

「歴史と旅・太平洋戦争軍艦戦記」秋田書房

「BC級戦犯横浜裁判資料」茶園義男 不二出版

Website「太平洋戦争と日本商船動向」(59)(66)

Website「悲運の戦時日本商船」(13)(40)

その他、各船舶のWikipedia